犬のひとり言

やつふさと申します。趣味で小説を書き、たまに投稿したりします。このブログでは主に趣味について綴っていきますが、それ以外について触れることも。

推しの舞台鑑賞記 1 ミュージカル刀剣乱舞「葵咲本紀」「歌合 乱舞狂乱2019」

舞台というと音楽関係の方に何かと縁があったのですが、3年前くらいから演劇、特に2.5次元の舞台を見に行くようになりました。そこで推しを演じていた俳優さんのことが気になり始め、出演作をいくつか見ました。生で見たのはまだ2つだけ、他は動画配信サイトなどでのものですが。

古いものですと数年前になるので今更な感じではありますが、どうしても語りたくなったのでまとめてみました。

 

ネタバレありですので、もし知りたくないという方はご注意を。

 

 

最初ということでまずは「推し」とは誰か?などの説明から。

ご存じの方には少々煩わしいかと思いますので、説明部分は飛ばして下さい。

 

刀剣乱舞」(とうらぶ)というゲームをご存じでしょうか?

少し前にテレビでもよく取り上げられていたので名前くらいなら聞いたことがあるかもしれません。2015年1月にサービス開始したゲームですが、私が始めたのは2か月後の3月でした。 

プレイヤーは「審神者」と呼ばれ、登場するキャラは日本刀の付喪神が人の姿をとった存在「刀剣男士」と呼ばれます。彼らを集め、出陣させて育成するゲームです。

 

日本刀というと短刀や太刀などを真っ先に思い浮かべるかもしれません。ですが、ゲーム中では他にも種類があります。脇差・打刀・大太刀・槍・薙刀・剣とこれだけあります。

私が好きなキャラは槍の「御手杵」です。彼について語り始めると話が尽きませんし、本題から外れますのでここでは簡単にご紹介するにとどめましょう。

槍としての「御手杵」は天下三名槍の一本として知られています。因みに他の二本とは「蜻蛉切」と「日本号」。この二本は現存していますが、御手杵だけは現存していません。昭和20年の東京大空襲で失われてしまいました。が、後年に有志の方の手で復元され、展示されているのでかつての姿を想像することができます。

刀剣男士としての御手杵は穏やかで優しく、近所にいそうなお兄ちゃんといった感じです。自分の主であるはずの審神者に対してもかなりフランクな接し方。同じ槍である蜻蛉切とは対照的です。口癖は「刺すしかできない」。御手杵蜻蛉切日本号と違い、刺すことに特化した形状をしていることからの発言でしょう。

 

とここまでがとうらぶ、及び御手杵についての説明。ここからが本題です。

 

とうらぶはゲームにとどまらず、アニメ・映画・舞台にミュージカルと様々なメディア展開をしていますが、ここでとりあげるのはミュージカル(刀ミュ)です。

毎年新作がかかるのですが、去年(2019年)の新作は「葵咲本紀」(あおさく)というサブタイトルでした。そこに御手杵が出ていたのです!最推しが出ているのだから是非生で見たい!と思い、運よくチケットがご用意されたので1公演のみでしたが見ることができました。

 

その御手杵を演じていたのが田中涼星さんでした。

 

刀剣乱舞に限らず他の2.5次元の舞台に出ている俳優さんは皆そうですが、できる限りキャラに近づけてくれるんですよ。身長や体格などどうしようもないものもありますし、個人的には違和感のあるキャラもありました。ですが、御手杵に関しては違和感なし!

 

御手杵は公式設定では身長192センチですが、涼星さんは188センチ。かなり近いです。それに私が感動したのは声です!特に口調。公式の声優さんが吹き替えしているのかと思うほどによく似ていたのです。そう思ったのは私だけではなかったようで、他の方の感想でも散見されました。

それに性格。アドリブと思しき場面でもすごくらしいんです。御手杵ならこう言いそうというセリフや動きはこれまた感動もの。芯からなりきっていないとこうはいきません。

 

とここまでが前置き。長くてすみません。まずはあおさくの話から

 

これは2017年の新作公演「三百年の子守唄」(みほとせ)の続編にあたります。こちらから説明しないとわかりにくいので、絡めながらあらすじを紹介します。

 

みほとせの冒頭、遠征先の三河で刀剣男士たちは松平家の当主・松平広忠と家臣たちが歴史遡行軍に惨殺される場面に遭遇するところから始まります。ちなみに歴史遡行軍とは刀剣男士たちの敵・歴史修正主義者たちの軍勢のことです。

このままでは歴史が変わってしまいます。ですが、幸いにも跡継ぎの竹千代(のちの徳川家康)は生き残りました。そこで刀剣男士たちは松平家家臣に成り代わり、竹千代を育てることに。長い月日の後、徳川家康の最期を看取るところで終わります。

 

そしてあおさくに繋がります。

これは関ケ原の前哨戦と言われる会津征伐に徳川家康が出陣し、今の栃木県小山に陣を張ったところから始まります。みほとせから引き続き蜻蛉切千子村正という二人の刀剣男士が出ています。

今回の敵の狙いは家康の次男である結城秀康。彼は兄・松平信康亡き後は徳川家を継ぐ立場のはずでしたが、なぜか外されてしまいます。そのことに不満をもっており、そこを敵に利用されてしまいます。いわゆる闇落ちしかけるのですが、刀剣男士たちの活躍でことなきをえるのです。

 

さて、あらすじで説明した登場人物に結城秀康という人物がいます。彼は御手杵の元の主です。結城家に婿養子に入った際に義父の結城晴朝(この人が御手杵を注文した人です)から御手杵を譲られました。

となるとがっつり絡むのか?と思ってしまいますよね?それが絡まないんですよね…。

むしろ秀康の双子の弟である永見貞愛の方といい感じのかけあいをするんですよ。よき喧嘩相手というかなんというか。彼らのやりとりがこれまた面白い!

第一印象は最悪な感じですが、やむを得ず行動を共にする間に少しずつ仲良くなっていきます。もうちょっと一緒にいられればきっと親友同士のような関係になれたのかもしれません。

 

ゲーム中での御手杵は戦以外のことに興味がなさそうな感じですが、刀ミュでは感情の起伏がはっきりしていて実に人間味に溢れています。その変化は激しいものではなく、あくまでも穏やか。そこにいるだけでほっとするような空気感です。それは涼星さんの素の性格からくるもののような気がします。

だとすればまさにはまり役。御手杵が目の前にいる!動いてしゃべっている!

…と感激したものです。

 

殺陣に関しては初めてではなさそうなのですが、槍はこれが初めてだったようです。長くて重い槍を振り回すに苦労したそうですが、様になっています。手足が長いこともあってすごくダイナミックなんですよね。

ただ、他の人に当たると大変なので、そのあたりは大変だったんじゃないかな?窮屈な思いをしたかも…。

 

ミュージカルなので当然歌とダンスはあります。刀剣乱舞のミュージカルでは前半のお芝居メインのパートと後半のライブにわかれます。前半ではメインで歌う場面があっても比較的短くてそれが残念!後半でもソロはありませんでした。次は是非たっぷり聞いてみたいものです。

ダンスはもうキレッキレ!見ていて気持ちがいいほどです。で、ここでの注目ポイントは手です。お芝居の時でもそうですが、手というか指の動きが美しい。すっとのびた指の形のなんと綺麗なこと!顔の次くらいには見惚れてしまうほどです。

それと、涼星さんについて必ず言われるのが足の長さ。なんと股下97センチという驚異的な長さ。ライブパートでのことですが、階段を五段ぬかししているんです!一般人ならせいぜい二段か三段くらい。初見時に目を疑いました。ええ。アーカイブ配信でも見ることができますし円盤にも収録されているはずですので、気になった方は要チェック!

 

 

さて、次は「歌合 乱舞狂乱2019」(歌合)についてです。

 

毎年12月頃、刀ミュに今まで出演した刀剣男士たちが集まるお祭りのような舞台があります。2018年までは「真剣乱舞祭」(らぶフェス)と言いましたが、2019年は「歌合 乱舞狂乱」のタイトルでした。

私が見たのは東京公演で、大千秋楽の前日の夜公演でした。

 

8つの短い物語(芝居)とその合間にこれまでの公演のライブパートの歌が歌われるという構成です。殺陣はほぼなく、本丸での日常風景が描かれています。

本公演では見られなかった衣装や普段の様子を見られるのが醍醐味の一つ。ゲーム中でいう「内番着」、要するに普段着をここで初めて目にしました。

御手杵の内番着って芋ジャーなんですよ。インナーは赤いTシャツで、これは戦に出かける時と同じもの(多分)。緑のジャージで、上着の胸には「御手杵」の名前入り。デカデカと名前が入っているのって御手杵ともう一振り、刀ミュには出ていないけど「不動行光」という短刀だけ。どちらも同じ絵師さんなので、これは絵師さんの趣味なのかな?

芋なんだけど…着ている人がスタイル良すぎるせいで芋に見えません。

ライブパートの衣装はあおさくのもの。複数公演に出演した刀剣男士の場合は最新作のものを着ていました。なので蜻蛉切もあおさくの衣装でした。

 

出演している刀剣男士が多いこともあり、御手杵の出番はあおさくの時ほど多くはありませんでした。残念ですが仕方がありません。ですが、よくよく注意してみるとけっこう意味深な役割を担っていたりするんですよね。

最初の物語では碁石が擦れ合う音が何に聞こえるかという話から始まります。霰が降る音、鉛玉がはぜる音、そろばんの音…などなど皆が口々に言います。ところが御手杵はその音に気が付いていながらそれが何に聞こえたか言わない。言いかけたところで篭手切江に引っ張られて退場してしまうからですが。

 

そして最後の場面。

刀剣男士全員で舞い踊り、新たな刀剣男士を召喚しようとしているところ。左右の二手に別れて呼びかける(歌う)のですが、その時の歌詞に「こちらへ こちらへ さあ!さあ!」という部分があります。その呼びかけをしているのは全員ではなく、御手杵陸奥守吉行。この二口にはある共通点があります。

それはどちらも燃えたことです。陸奥守吉行はかの坂本龍馬の愛刀。函館での大火災に巻き込まれた際に焼けてしまいましたが現存しています。

 

そしてそれは最初の物語で御手杵にはあの音が何に聞こえたか、という答えにも通ずるものがあります。あの時、振り返った御手杵の表情は強張っていたように見えました。それは他の刀剣男士たちの表情とは明らかに違うもの。いつも穏やかで明るい御手杵としては珍しい表情です。よくよく見ていないと見逃してしまいそうですが、あまりに異質なので記憶に残ったほどです。

答えはおそらく火が燃えるパチパチという音、もしくは空から焼夷弾が降ってくる音ではないでしょうか。だとすれば辛い…。

 

あおさくの時もそうでしたが、ご用意された席は前方の左側でした。端ではありませんでしたが比較的通路に近い方でした。この時は男士たちがけっこうそばを通っていったのですが、御手杵は3回も通ったんですよ!もう嬉しくて嬉しくて(泣)。あおさくの時は一度も通ってくれなかったから余計に嬉しかったですねえ。

 

演劇でも音楽でもやっぱり生が一番いい。

役者さんたちの熱が感じられるし、回替わりのアドリブなどもあるから何度でも楽しめます。お財布が許せば、チケットが手に入るなら一回と言わず何度でも見ることをオススメします。

 

 

なんか感想というよりは紹介の方が多くなってしまい、すみません(汗)

ともあれ、これで私の中では田中涼星さんが一気に注目株に。

過去の出演作を探し、配信されているものに関しては見て雑誌に記事が載っていると聞けば買いました。

いい年して、と思わなくもないですが目が離せないんですよね。

これからも彼の舞台を見たい!2.5もいいのですが、ストレートも見てみたい!

その時、どんな演技を見せてくれるのか楽しみです

 

 

 

 

 

 

 

 

平和が一番

元々コミュ障というか、人付き合いが苦手。

ものすごく気を遣いすぎて疲れる。だから、どれだけ親しい人でもというか親しい人ほど疲労感がすごい。逆に初対面に近い方がまだ疲れないかも。

 

そのせいで人付き合いに関してはかなり不精で、よほど会いたいと思う人でないと一対一で会おうとは思わない。嫌われたくないと気を張り、一杯一杯になる。

 

そのせいで友達らしい友達がいない。まあ、これは自業自得だと思っている。この年になって恥ずかしいことなのかもしれないけど。

 

そのコミュ障っぷりはTwitterでも健在で、ほぼほぼ誰かと絡むことがない。

そもそもは情報収集の為に始めただけで、今も基本的に変わらない。でも、本格的(?)にオタ活を始めた時にやむを得ず連絡先としてメインのアカウントを設定してしまってから考えが変わってきた。

 

同じ界隈にいる人たちがフォロワーさんと仲良く絡んでいるのが羨ましくなってきたのだ。見様見真似で頑張ってみたけれど、どうにも駄目らしい。一時期はかなり悩み、今にして思うと鬱スレスレの精神状態だったような気もする。

それから一年以上をかけ、少しずつ回復してきたように思うが完全復帰とはまだ言えない状態だ。どうすればいいか。それについては明確な答えが未だに出ない。

 

それでもわかったことはある。私の性格上、おそらくは勝手な思い込みで自分を追い込んでいたのだろう。後になってそこまで悩むことはなかった、馬鹿馬鹿しいと思ったこともある。嫌われたくないからと自分の考えを曲げ、人に合わせることが多いのも良くなかったように思う。

それと、人間の考えは十人十色で違っていて当たり前。どんなにすばらしい考えや忠告でもそれが私にあっている、当てはまるとは限らないのだと。

どんなに正しい考えでも私にとって辛く感じられるならそれは私にとっては合わないもの。その考えに合わせる必要はないのだとも。

そう思うとかなり楽になった。

 

ただし、そうなると今後もTwitterで誰かと仲良く絡むことはないのだろう。それも仕方がない、望んではいけないのかもしれない。

 

これからは私の考えで、ペースでやっていこうと思う。長年の考えは中々変わるものではないけど、自分で自分を苦しめるのはもうやめよう。心の傷は目に見えないから厄介だ。健康と平和が一番なのだから。

 

「孤島の鬼」はいいぞ その1

江戸川乱歩原作の「孤島の鬼」という長編があります。乱歩大先生の長編の中で最も出来がいい、傑作とも評される小説です。初めは雑誌に連載される形で発表されたのですが、それが昭和4年。同性愛が重要な要素として扱われているのですが、それが昭和初期であったことに驚きを禁じえません。他にも密室、衆人環視の中での殺人、絶海の孤島での冒険などが盛り込まれていて読み応えは半端ないです。

 

 原作を初めて読んだのは10代前半でしたが、当時はそれほど印象に残りませんでした。おそらく金田一シリーズの方に夢中になっていたからかと思います。それから数十年たった今年。推しが出ているからと見た舞台「孤島の鬼」(2017年に再演された方です)ですっかりはまり、原作を読みなおしコミックやドラマCDまで買ってしまうほどに。色々と思うところもあり、どこかに吐き出したいのとオススメしたいという気持ちが高じたあまりに書き出してみました。語りたいことがあまりに多く、長くなりそうなので数回に分ける予定です。

 今回はあらすじの紹介と、原作についての感想・考察となります。後半部分はネタバレを含みますので、見たくない方はご注意下さい。

 

あらすじ

 

 この話は「私」こと簑浦が書いた手記という体裁をとっている。30歳前というのに髪の毛が真っ白になってしまったのはある事件に巻き込まれたからであるが、あまりに作り話しめいているせいかなかなか信じてもらえない。それに語るにはあまりに長い話だから本にまとめることにしたのだという前書きから始まる。

 

 当時簑浦は25歳。とある会社に勤める平凡な会社員。最近入社してきた女性・木崎初代と婚約している。婚約した時、簑浦は指輪を贈ったが初代は指輪を買うお金がないからと命の次に大切にしている物を簑浦に預けた。それは一冊の系図帳。実は初代は捨て子で、養父母に拾われた時に持っていたのがそれだけだった。実の親に繋がる唯一の物だからと初代はそれを肌身離さず持ち歩いていた。

 ところがその直後、初代に求婚する男性が現れた。彼の名は諸戸道雄。帝大を卒業した外科医で現在は研究に専念。簑浦の6歳年長で、かつて同じ下宿に住んでいたことがあった。実は女嫌いであり、簑浦に友人以上の感情を抱いている。そんな彼が一体なぜ初代に求婚したのだろうか。不審の念を抱く簑浦。

 そんなある日、初代が何者かによって殺されてしまう。簑浦は嘆き悲しみ、復讐を決意。自分の手で犯人を見つけ出そうと考え、年長の友人である深山木幸吉に捜査を依頼。物知りであり、探偵のようなこともしていた彼ならと思ったのだ。

 深山木はさっそく手がかりをつかんだが、簑浦に打ち明ける前に殺されてしまった。人が大勢いる真夏の浜辺で。親しい人たちを立て続けになくし、簑浦は途方に暮れてしまう。ほとんど手がかりはなく、懸命に考えるうちに浮かんだのは諸戸のこと。深山木が殺された浜辺で見かけたし、初代の家でもばったり会った。元々、初代への求婚は自分たちの仲を裂く為ではと邪推していたこともあり諸戸を疑うまでに。

 諸戸の家へ出向き、早速問い詰めると意外な展開になった。彼は嘆き悲しむ簑浦を見かねて犯人捜しをしていたのだと告白。さらに二つの殺人の謎を鮮やかに解き、実行犯を見つけさえした。が、実行犯は黒幕の名を口にする前に何者かによって射殺されてしまう。諸戸への疑いもすっかり消え、以後は二人で事件の謎に立ち向かうことに。

 深山木は殺される前に事件の手がかりを石膏像に隠した上で簑浦に送っていた。石膏像の中から出てきたのは初代の系図帳と何者かによって書かれた雑記帳。系図帳には謎めいた文句が書きつけられていたが、これは隠し財宝の在り処らしい。雑記帳はある双生児の片割れによって書かれたものだった。

 簑浦はそこに書かれた景色と以前に初代から聞いた話に出てきた景色が一致していることに気付く。それを絵に描いて諸戸に魅せるとなぜかひどく動揺する。話はまた明日にと言って帰ってしまった。

 翌日に諸戸が打ち明けてくれた話は奇怪なものだった。簑浦が描いて見せた景色は諸戸の故郷である紀州の岩屋島だという。そしてこれまでに得られた手がかりから考えるに真の黒幕は父・丈五郎としか思えないと告げる。続いて彼は両親については血の繋がった親だと思えないと語る。父からは暴力を振るわれた。母は愛してくれたがそれは我が子としてではなく一人の男として。あまりのおぞましさにすっかり女嫌いになってしまったという。

 そんな極悪非道な悪人でも親は親だ。自分から警察に告発するには忍びない。せめて自首を勧める、いざとなれば差し違えてでもという諸戸の決心に簑浦は言葉を失う。同時に初代を殺した者への復讐の念を思い起こし、諸戸と共に彼の故郷へ向かうことにした。

 

 岩屋島は漁師の家が数軒あるばかりの小さな島だった。諸戸の屋敷に住む者たちは、彼の両親である当主夫婦をはじめとして、醜い風貌と異様な体をもつ者たちばかり。その中に男女の双生児がいた。どうやらその片割れの女性・秀ちゃんがあの雑記帳を書いた本人らしい。蔵の窓越しに初めて見た彼女は意外にも美しく、ひと目で心を奪われてしまう。秀ちゃんも簑浦に好意をもったようだった。それからは屋敷の者達の目を盗んで度々会いにいくほどになった。

 簑浦たちが岩屋島に到着して数日後。その日も蔵へ向かうと窓辺に姿を見せたのは諸戸だった。驚く簑浦に彼は手紙を投げてよこす。父との話し合いは決裂し、逆に蔵に閉じ込められることに。簑浦の身が危ないから島から逃げるようにという内容だった。初代の復讐を果たしていないのに島を去る気はないが、どうすればいいかわからない。悩む簑浦に丈五郎は今すぐ島を出て行けと言う。

 簑浦を本土へ送るようにと命じられた漁師の徳さんを説得し、なんとか島へとどまることはできた。しかし、その代わりに徳さんと彼の息子が丈五郎の奸計で海の藻屑となってしまう。

 蔵の中の諸戸に事の次第を手紙で知らせると彼は立ち直ったらしく、協力してことにあたることになった。屋敷の者たちの隙を見計らい、双生児と共に蔵を脱出。逆に丈五郎夫婦を閉じ込めてしまった。屋敷の中に閉じ込められていた子供たちを解放し、隠し財宝を探しに行くことにした。

 

 古井戸の底にあった横穴から潜り込んだそこは六道の辻と形容される迷路だった。縄をしるべに進んでいったが何者かに切られてしまい、道に迷う羽目に。心細さから弱音を吐くも諸戸の冷静さと頼もしさに励まされて辛うじて歩き続けた。

 だが、気が遠くなるほど歩き続けても一向に出口は見えず、とうとう疲れと空腹から一歩も歩けなくなる。もう死のうと座り込んだ二人。諸戸は今まで隠していたことを簑浦に話し始める。

 父・丈五郎の不幸な生い立ちとおぞましい復讐計画。あまりにも残酷で鬼としか思えない親に絶望し、涙を流す諸戸に簑浦は言葉もない。そして簑浦の一言をきっかけにとうとう理性を失った諸戸は、今こそ自分を愛してほしいと襲いかかってくる。逃げる簑浦を追いかける諸戸。暗闇の中で恐怖の鬼ごっこが始まった。

 とうとう捕まり、もみ合っていると誰かが声をかけてきた。なんと漁師の徳さんだった。辛うじて難を免れたものの、簑浦たちと同じくこの地底をさまよっていたのだ。話をするうちに彼の口から意外な事実を聞かされる。食料を確保できたこともあり、元気が出た二人は徳さんと共に再び歩き始める。

 それから間もなく財宝を発見。そこには先回りしていた丈五郎の姿が。簑浦たちの縄を切ったのはどうやら彼だったらしい。先回りして財宝を見つけたはいいが気が狂ってとりとめもないことを呟くばかり。丈五郎がしるべとしてきた縄を辿って簑浦たちはとうとう地上へ出ることができた。

 そこには警察の人たちの姿があった。彼らの手で悪人は一掃された。しかし、地底での恐怖の為に簑浦の髪は真っ白になってしまい、一見老人と見間違えられるまでに。その後はあの秀ちゃんと結婚し、彼女の財産で、諸戸屋敷で虐げられていた者たちの為の病院を設立するなど忙しくも幸せな日々。しかし、そんな中ひとつの悲しい便りが簑浦たちに届いたのだった。

 

 

 

 最初の初代殺しの現場は密室であり、深山木殺しは衆人環視の中。どちらもミステリでは見かけるテーマですね。そして三番目の殺人は窓越しの狙撃。これ、コナン・ドイルの「空き家の冒険」の殺害方法と同じように思うのですが。犯人は相当に腕がたつんですね。犯人については明記されていませんが、真の黒幕がそうだとすれば意外な感がします。

 後半部分の財宝探しの場面は横溝正史の「八つ墓村」に大筋で似ているような気がします。地底の迷路、そこでさまよい歩く主人公。最後はちゃんと助かり、財宝も手に入れる。自分を慕ってくれるヒロインがいて彼女と結婚するところも同じですね。

 それだけでも十分に魅力的なのですが、そこに同性愛の要素が加わることで怪しい美しさが加わり、どこかもの悲しさのある話に仕上がっていると思います。

 

原作中では現代では差別用語とされる言葉が頻繁に出てきますので、あまり気分が良くないと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。同じ理由で他メディア化するには難しい話ですね。昭和4年の作品であり、表現や言葉遣いは古風ですが意外と読み易いです。読む人を選ぶ話であり、誰にでもと言えないのが残念ですが是非読んでみてほしい!

 まずは原作を読んでほしいところですが、苦手ならコミックもありますよ!電子書籍にもなっていますので手に入りやすいかと思います。

 

 

 

 さて、ここからはネタバレあり&腐女子的視点での考察・感想となりますのでご注意を。

 

 

 

 一読しての感想は「諸戸がかわいそう!」と「最後があっさりすぎない?」というものでした。諸戸は簑浦くんの言葉を借りると「私の知る限りに於いて、肉体的にも精神的にも、最も高貴な感じの美青年」。人望もあったらしいし、お金持ち。簑浦くんに一目ぼれしたらしく、どんな目にあおうとひたすら尽くします。この時点でもう健気すぎて泣けてきます。

 簑浦くんはそんな優秀な先輩が好意を寄せてくれることに自尊心をくすぐられ、甘えまくります。最初はただの親切と思っていたようですが、実はそれ以上のものであることに気付いてしまいます。しかし、それでも変わらず甘えるんですよね。お風呂で体を洗いあったり、手を繋いだり肩を組んだり。半ば意識してやっていたというのだから質が悪い!諸戸にしてみれば蛇の生殺し状態。

 しかも、諸戸以外にも簑浦くんに気のある男性がいた様子。最初の探偵役である深山木を始めとして他にも数人いたと思われます。年上キラーなんですかね。さんざん気を持たせ、しかも相手の気持ちには応えない。それだけみると小悪魔と評されるのも納得。

そんな簑浦くん。女性と恋に落ちて婚約までしてしまう。彼女とのデートの模様を諸戸に向かってノロケるのです。なんと残酷な。諸戸がどれほど傷ついたかわからないのか?

簑浦くんは精神的には同性愛に抵抗なさそうだけど肉体的には完全に異性愛。恋愛の対象になるのは結局のところ女性だけなので、諸戸の愛を受け入れられないこと自体は仕方がない。ならばきっぱり縁を切るか、近すぎる距離感をどうにかするべきだったのでは?そうせずに諸戸から離れなかったのはひどい。そういう意味では簑浦くんは鬼ですね。

ただし、これは諸戸に感情移入しているからこその感想だと思います。簑浦くんの立場で考えるとまた違った感想になるのでしょうが、だとしても思わせぶりな態度はいかがなものかと思いますね。

 

ただ、あの手記は諸戸との関係については全てを書いていないような気がします。もしかしたら嘘をついているかもしれない。というのも、結論から先に言うと各方面に配慮したのと簑浦くん自身の保身が働いた結果だと思うのです。

事件が発生したのが大正14年。事件後に手記を書き上げたのはおそらく早くともその翌年でしょう。仮に二人が恋人関係だった、しかも体の関係まであったとしたら世間に向かって告白するにはかなりの勇気がいるはず。当時は変態的だの犯罪だのと言われていたらしく、だからこそ諸戸も悩み苦しんでいたのですから。

事件後、簑浦くんは秀ちゃんと結婚し、彼女の財産で諸戸屋敷の体の不自由な人たちを収容する施設や病院を建てます。つまり、まっとうに結婚して立派な事業を営み始めたわけです。となるとますます告白するわけにはいかないでしょう。自分だけならまだしも、妻や将来生まれるはずの子供に肩身の狭い思いをさせてしまうかもしれないのですから。そう考えると諸戸との関係は否定するしかないでしょう。しかし、既に知られている事実に関しては隠すわけにはいかないので、ああいうふうに書くしかなかったのかな。

 それに、諸戸の本当の家族(これについては後で説明します)に迷惑が及ぶかもしれない。大団円では登場人物たちのその後について語られていますが、諸戸の本当の名前を簑浦くんは知っていたはずなのに書かれていません。簑浦くんの一存なのか、本当の家族から頼まれたのか。どちらかはわかりませんが、なんらかの意図があって伏せたのだとしか思えません。

 恋人同士でなかったとしてもあの手記に書かれた以上の何かがあったのは確実でしょう。それが何かは推測するしかありませんが、個人的には諸戸の想いが多少なりとも報われるものであってほしいものです。

 

 さて、なんやかんやで岩屋島へ渡った二人。簑浦くんはそこで初めて秀ちゃんと(蔵の窓ごしですが)対面しますが、なんと互いに一目ぼれしてしまうのです!婚約者だった初代さんは亡くなったのだから誰と恋をしようが自由だけど、でもねえ…。葬式で灰を盗んで飲み込み、復讐を誓ったほどなのにもう他の女性と恋に落ちたの?初代さんが亡くなってから四十九日が過ぎたくらい?なのに…。それに、諸戸の気持ちは?そう考えるとすっきりしないんですよね。

 後に財宝を探しに地底へ潜り、迷路で迷った時のこと。諸戸が丈五郎との会話を打ち明けます。丈五郎は醜い上にせむしだからと幼い頃から虐げられてきました。その復讐として正常な人間も自分と同じような体に改造してやるという歪んだ野望をもっていました。諸戸に医学を勉強させたのはその手伝いをさせる為。

 屋敷にいる者の大半は丈五郎によって手術された者で、そうして人工的に作った者を見せ物小屋に売っていたというのですから狂っているとしか言いようがない。諸戸が絶望するのも納得な極悪非道ぶり。

あの双生児もそうでした。元々はごく普通の人間だったのを無理矢理にくっつけただけなので、切り離すのも簡単だと簑浦の問いに諸戸は答えます。そして彼女が元は普通の人間だったと知って嬉しいかい?と聞く。それに対し簑浦くんは「君は嫉妬しているの」と逆に質問する。

オイオイ、それをこの状況で言いますか。もう死ぬしかないと絶望し、自棄になった状態でそんなこと言ったらどうなるか。案の定、その一言でスイッチが入ってしまった諸戸は理性を失い、本気で簑浦くんに襲いかかってしまうのです。少し前まで怖い怖いと諸戸に縋りついていたくせに、こうなると断固拒否。生理的に無理なものを受け入れろとは言いません。でも、虫が良すぎやしないか?キスくらいは許してやれよ…と思ってしまうのは簑浦くんの無自覚な残酷さのせいか。ある意味鬼ですよ、鬼。

とにかく、簑浦くんは逃げ出し諸戸はそれを追いかけます。この状態の諸戸も簑浦くんからしたら鬼か悪魔に思えたでしょう。ちょっとだけ同情します。彼らだけではありません。タイトルの「孤島の鬼」とは素直に読めば丈五郎のことなのでしょうが、諸戸も簑浦も当てはまるかもしれません。いや、他の人もそうかも。誰の心の中にも鬼がすんでいるということなのでしょうね。

 その後、とうとう捕まって押し倒された簑浦くん。必死に抵抗し、揉みあっている間に登場したのがなんと漁師の徳さん。息子さんは残念ながら行方不明でしたが、おかげで助かったと簑浦くんはひと安心。諸戸としてはいいところで邪魔が入って悔しかったかもしれません。

 そこで徳さんの口から衝撃の事実が発覚します。なんと、諸戸は丈五郎の本当の子供ではなかったというのです。本土から誘拐されてきた子供なのだと。そして秀ちゃんは初代さんの妹で本当の名は緑。それまで絶望し、ここで死にたいと言っていた諸戸はその言葉で生きる気力を取り戻します。地上へ戻り、本当の親が誰かを白状させると。徳さんのおかげで食料も確保できたところで脱出を目指します。

 その後財宝の在り処を発見しましたが、その場に丈五郎の姿が。簑浦たちの縄を切ったのはどうやら彼で、自分は別の縄で先回りしていたらしい。お宝を前にすっかり正気を失っていました。後に警察に捕まり、おそらくは刑務所行きになったと思われます。しかし、あれだけの悪行三昧の末がこれですか。犯した罪の重さに比べて受けた罰があまりにも軽いような気がするのは私だけでしょうか。

 

 最終章のタイトルは「大団円」、つまり後日談ですが、登場人物たちのその後を簡単に説明している程度です。あまりに簡単すぎて拍子抜けです。

 ここで最大の衝撃が諸戸道雄の死でしょう。彼は丈五郎の妻の告白で実の親兄弟が判明します。30年ぶりの帰省を果たすのですが、それから一か月もたたないうちに死んでしまうのです。死因については触れられていません。

一か月で亡くなるって…死因はなんだったのだろう?病死とは考えにくいし、となると自殺…?と色々勘繰ってしまいます。いずれにせよ家族に看取られての最期だったようです。それは最後の一文を読めばわかります。

 最後の一文は道雄の父からの手紙を引用していますが、ここではご紹介しません。それは最初に読んでしまったのではたいした意味を持たないからです。私は長い物語の最後にこの言葉を目にした時、ものすごい衝撃を受けました。それから何度読み返しても、いや思い出すだけで涙してしまうほどです。簑浦くんの心情は書かれていませんが、おそらく衝撃を受けたでしょう。二人の関係性によっては道雄の死は簑浦くんの心に深く刺さり、一生消えない傷を負わせたのではないか。そんな気がしてなりません。

 

 繰り返しにはなりますが、道雄が本当に気の毒でなりません。簑浦くんは距離感がおかしくて勘違いさせまくりという意味で罪深い男ですが、生理的に同性を(恋愛的な意味では)受け入れられないことについては悪くもなんともない。道雄もそれをわかっているからこそ責めることは決してしません。自分の想いが報われることは決してないとわかっていながら8年間ずっと簑浦くんに尽くし、愛するのです。

 双生児を切り離す手術をしたのは道雄だったようです。その時、彼は一体どんな気持ちだったでしょうね。その後、簑浦くんは秀ちゃんこと緑と結婚します。そして異形の者たちの為の外科病院を建てるのですが、その院長として道雄を迎えたいと考えていたようです。

道雄がそれらを知っていたかどうかわかりません。もしも知っていたとしたらあまりにも残酷すぎる仕打ちだと思うのですが。想い人が幸せな家庭を営むのを傍で見せつけられるなんてまさに地獄ですよ、地獄。生きる希望を失ったとしてもおかしくないでしょう。もしかしたら死因はそれなのかも。

 

 

 コミックや舞台についても触れたかったのですが、原作についてだけでも長くなりすぎたのでまた別のところで。ここまで読んで頂きありがとうございました。

自己紹介

前の記事で書けばよかったとは思いますが、もう少し詳しい自己紹介を。

 

ゲーム好きで、昔は暇な時間の大半はゲームに費やしていましたが、今では主にソシャゲをプレイ。「刀剣乱舞」と「グランブルーファンタジー」をやっています。

他には小説も書いており、刀剣乱舞の二次創作をピクシブに投稿しています。

 

本は小さい頃から結構読んでおり、人生で最初にはまったのが「南総里見八犬伝」。干支が犬年でもあり、「やつふさ」という名はそこからもらいました。

読書はジャンル問わずの乱読。興味をもったことはかなり深く掘り下げますが、そうでなければ通り一遍で済ませてしまいます。なので知識にはかなり偏りがあります。

 

元々内気な方だと思いますが、そのせいで対人スキルが低くコミュ障気味。特にSNSでの交流が不得意です。字書きの端くれですが、Twitterのように短い字数の中で言いたいことを正確に伝えられる自信がありません…。というのもあってブログを始めてみました。

 

実は腐女子であり、そっち関係の話題に触れる記事もあると思いますが、必ず注意書きをおくようにします。

はじめまして

はじめまして、やつふさと申します。

趣味で小説を書いており、とあるサイトに投稿したりしています。

ゲームも好きですが、あまり時間がとれないのでのんびりまったりマイペースにやっています。

 

 趣味に関連したことで思うこと、感じたことを綴っていく予定です。思いつくままに書いていくことになりそうなので、脈絡がないかもしれません。それに、一部かなり読む人を選ぶようなテーマになると思います。更新するペースも遅い方だと思いますがよろしくお願いします。