犬のひとり言

やつふさと申します。趣味で小説を書き、たまに投稿したりします。このブログでは主に趣味について綴っていきますが、それ以外について触れることも。

「孤島の鬼」はいいぞ その1

江戸川乱歩原作の「孤島の鬼」という長編があります。乱歩大先生の長編の中で最も出来がいい、傑作とも評される小説です。初めは雑誌に連載される形で発表されたのですが、それが昭和4年。同性愛が重要な要素として扱われているのですが、それが昭和初期であったことに驚きを禁じえません。他にも密室、衆人環視の中での殺人、絶海の孤島での冒険などが盛り込まれていて読み応えは半端ないです。

 

 原作を初めて読んだのは10代前半でしたが、当時はそれほど印象に残りませんでした。おそらく金田一シリーズの方に夢中になっていたからかと思います。それから数十年たった今年。推しが出ているからと見た舞台「孤島の鬼」(2017年に再演された方です)ですっかりはまり、原作を読みなおしコミックやドラマCDまで買ってしまうほどに。色々と思うところもあり、どこかに吐き出したいのとオススメしたいという気持ちが高じたあまりに書き出してみました。語りたいことがあまりに多く、長くなりそうなので数回に分ける予定です。

 今回はあらすじの紹介と、原作についての感想・考察となります。後半部分はネタバレを含みますので、見たくない方はご注意下さい。

 

あらすじ

 

 この話は「私」こと簑浦が書いた手記という体裁をとっている。30歳前というのに髪の毛が真っ白になってしまったのはある事件に巻き込まれたからであるが、あまりに作り話しめいているせいかなかなか信じてもらえない。それに語るにはあまりに長い話だから本にまとめることにしたのだという前書きから始まる。

 

 当時簑浦は25歳。とある会社に勤める平凡な会社員。最近入社してきた女性・木崎初代と婚約している。婚約した時、簑浦は指輪を贈ったが初代は指輪を買うお金がないからと命の次に大切にしている物を簑浦に預けた。それは一冊の系図帳。実は初代は捨て子で、養父母に拾われた時に持っていたのがそれだけだった。実の親に繋がる唯一の物だからと初代はそれを肌身離さず持ち歩いていた。

 ところがその直後、初代に求婚する男性が現れた。彼の名は諸戸道雄。帝大を卒業した外科医で現在は研究に専念。簑浦の6歳年長で、かつて同じ下宿に住んでいたことがあった。実は女嫌いであり、簑浦に友人以上の感情を抱いている。そんな彼が一体なぜ初代に求婚したのだろうか。不審の念を抱く簑浦。

 そんなある日、初代が何者かによって殺されてしまう。簑浦は嘆き悲しみ、復讐を決意。自分の手で犯人を見つけ出そうと考え、年長の友人である深山木幸吉に捜査を依頼。物知りであり、探偵のようなこともしていた彼ならと思ったのだ。

 深山木はさっそく手がかりをつかんだが、簑浦に打ち明ける前に殺されてしまった。人が大勢いる真夏の浜辺で。親しい人たちを立て続けになくし、簑浦は途方に暮れてしまう。ほとんど手がかりはなく、懸命に考えるうちに浮かんだのは諸戸のこと。深山木が殺された浜辺で見かけたし、初代の家でもばったり会った。元々、初代への求婚は自分たちの仲を裂く為ではと邪推していたこともあり諸戸を疑うまでに。

 諸戸の家へ出向き、早速問い詰めると意外な展開になった。彼は嘆き悲しむ簑浦を見かねて犯人捜しをしていたのだと告白。さらに二つの殺人の謎を鮮やかに解き、実行犯を見つけさえした。が、実行犯は黒幕の名を口にする前に何者かによって射殺されてしまう。諸戸への疑いもすっかり消え、以後は二人で事件の謎に立ち向かうことに。

 深山木は殺される前に事件の手がかりを石膏像に隠した上で簑浦に送っていた。石膏像の中から出てきたのは初代の系図帳と何者かによって書かれた雑記帳。系図帳には謎めいた文句が書きつけられていたが、これは隠し財宝の在り処らしい。雑記帳はある双生児の片割れによって書かれたものだった。

 簑浦はそこに書かれた景色と以前に初代から聞いた話に出てきた景色が一致していることに気付く。それを絵に描いて諸戸に魅せるとなぜかひどく動揺する。話はまた明日にと言って帰ってしまった。

 翌日に諸戸が打ち明けてくれた話は奇怪なものだった。簑浦が描いて見せた景色は諸戸の故郷である紀州の岩屋島だという。そしてこれまでに得られた手がかりから考えるに真の黒幕は父・丈五郎としか思えないと告げる。続いて彼は両親については血の繋がった親だと思えないと語る。父からは暴力を振るわれた。母は愛してくれたがそれは我が子としてではなく一人の男として。あまりのおぞましさにすっかり女嫌いになってしまったという。

 そんな極悪非道な悪人でも親は親だ。自分から警察に告発するには忍びない。せめて自首を勧める、いざとなれば差し違えてでもという諸戸の決心に簑浦は言葉を失う。同時に初代を殺した者への復讐の念を思い起こし、諸戸と共に彼の故郷へ向かうことにした。

 

 岩屋島は漁師の家が数軒あるばかりの小さな島だった。諸戸の屋敷に住む者たちは、彼の両親である当主夫婦をはじめとして、醜い風貌と異様な体をもつ者たちばかり。その中に男女の双生児がいた。どうやらその片割れの女性・秀ちゃんがあの雑記帳を書いた本人らしい。蔵の窓越しに初めて見た彼女は意外にも美しく、ひと目で心を奪われてしまう。秀ちゃんも簑浦に好意をもったようだった。それからは屋敷の者達の目を盗んで度々会いにいくほどになった。

 簑浦たちが岩屋島に到着して数日後。その日も蔵へ向かうと窓辺に姿を見せたのは諸戸だった。驚く簑浦に彼は手紙を投げてよこす。父との話し合いは決裂し、逆に蔵に閉じ込められることに。簑浦の身が危ないから島から逃げるようにという内容だった。初代の復讐を果たしていないのに島を去る気はないが、どうすればいいかわからない。悩む簑浦に丈五郎は今すぐ島を出て行けと言う。

 簑浦を本土へ送るようにと命じられた漁師の徳さんを説得し、なんとか島へとどまることはできた。しかし、その代わりに徳さんと彼の息子が丈五郎の奸計で海の藻屑となってしまう。

 蔵の中の諸戸に事の次第を手紙で知らせると彼は立ち直ったらしく、協力してことにあたることになった。屋敷の者たちの隙を見計らい、双生児と共に蔵を脱出。逆に丈五郎夫婦を閉じ込めてしまった。屋敷の中に閉じ込められていた子供たちを解放し、隠し財宝を探しに行くことにした。

 

 古井戸の底にあった横穴から潜り込んだそこは六道の辻と形容される迷路だった。縄をしるべに進んでいったが何者かに切られてしまい、道に迷う羽目に。心細さから弱音を吐くも諸戸の冷静さと頼もしさに励まされて辛うじて歩き続けた。

 だが、気が遠くなるほど歩き続けても一向に出口は見えず、とうとう疲れと空腹から一歩も歩けなくなる。もう死のうと座り込んだ二人。諸戸は今まで隠していたことを簑浦に話し始める。

 父・丈五郎の不幸な生い立ちとおぞましい復讐計画。あまりにも残酷で鬼としか思えない親に絶望し、涙を流す諸戸に簑浦は言葉もない。そして簑浦の一言をきっかけにとうとう理性を失った諸戸は、今こそ自分を愛してほしいと襲いかかってくる。逃げる簑浦を追いかける諸戸。暗闇の中で恐怖の鬼ごっこが始まった。

 とうとう捕まり、もみ合っていると誰かが声をかけてきた。なんと漁師の徳さんだった。辛うじて難を免れたものの、簑浦たちと同じくこの地底をさまよっていたのだ。話をするうちに彼の口から意外な事実を聞かされる。食料を確保できたこともあり、元気が出た二人は徳さんと共に再び歩き始める。

 それから間もなく財宝を発見。そこには先回りしていた丈五郎の姿が。簑浦たちの縄を切ったのはどうやら彼だったらしい。先回りして財宝を見つけたはいいが気が狂ってとりとめもないことを呟くばかり。丈五郎がしるべとしてきた縄を辿って簑浦たちはとうとう地上へ出ることができた。

 そこには警察の人たちの姿があった。彼らの手で悪人は一掃された。しかし、地底での恐怖の為に簑浦の髪は真っ白になってしまい、一見老人と見間違えられるまでに。その後はあの秀ちゃんと結婚し、彼女の財産で、諸戸屋敷で虐げられていた者たちの為の病院を設立するなど忙しくも幸せな日々。しかし、そんな中ひとつの悲しい便りが簑浦たちに届いたのだった。

 

 

 

 最初の初代殺しの現場は密室であり、深山木殺しは衆人環視の中。どちらもミステリでは見かけるテーマですね。そして三番目の殺人は窓越しの狙撃。これ、コナン・ドイルの「空き家の冒険」の殺害方法と同じように思うのですが。犯人は相当に腕がたつんですね。犯人については明記されていませんが、真の黒幕がそうだとすれば意外な感がします。

 後半部分の財宝探しの場面は横溝正史の「八つ墓村」に大筋で似ているような気がします。地底の迷路、そこでさまよい歩く主人公。最後はちゃんと助かり、財宝も手に入れる。自分を慕ってくれるヒロインがいて彼女と結婚するところも同じですね。

 それだけでも十分に魅力的なのですが、そこに同性愛の要素が加わることで怪しい美しさが加わり、どこかもの悲しさのある話に仕上がっていると思います。

 

原作中では現代では差別用語とされる言葉が頻繁に出てきますので、あまり気分が良くないと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。同じ理由で他メディア化するには難しい話ですね。昭和4年の作品であり、表現や言葉遣いは古風ですが意外と読み易いです。読む人を選ぶ話であり、誰にでもと言えないのが残念ですが是非読んでみてほしい!

 まずは原作を読んでほしいところですが、苦手ならコミックもありますよ!電子書籍にもなっていますので手に入りやすいかと思います。

 

 

 

 さて、ここからはネタバレあり&腐女子的視点での考察・感想となりますのでご注意を。

 

 

 

 一読しての感想は「諸戸がかわいそう!」と「最後があっさりすぎない?」というものでした。諸戸は簑浦くんの言葉を借りると「私の知る限りに於いて、肉体的にも精神的にも、最も高貴な感じの美青年」。人望もあったらしいし、お金持ち。簑浦くんに一目ぼれしたらしく、どんな目にあおうとひたすら尽くします。この時点でもう健気すぎて泣けてきます。

 簑浦くんはそんな優秀な先輩が好意を寄せてくれることに自尊心をくすぐられ、甘えまくります。最初はただの親切と思っていたようですが、実はそれ以上のものであることに気付いてしまいます。しかし、それでも変わらず甘えるんですよね。お風呂で体を洗いあったり、手を繋いだり肩を組んだり。半ば意識してやっていたというのだから質が悪い!諸戸にしてみれば蛇の生殺し状態。

 しかも、諸戸以外にも簑浦くんに気のある男性がいた様子。最初の探偵役である深山木を始めとして他にも数人いたと思われます。年上キラーなんですかね。さんざん気を持たせ、しかも相手の気持ちには応えない。それだけみると小悪魔と評されるのも納得。

そんな簑浦くん。女性と恋に落ちて婚約までしてしまう。彼女とのデートの模様を諸戸に向かってノロケるのです。なんと残酷な。諸戸がどれほど傷ついたかわからないのか?

簑浦くんは精神的には同性愛に抵抗なさそうだけど肉体的には完全に異性愛。恋愛の対象になるのは結局のところ女性だけなので、諸戸の愛を受け入れられないこと自体は仕方がない。ならばきっぱり縁を切るか、近すぎる距離感をどうにかするべきだったのでは?そうせずに諸戸から離れなかったのはひどい。そういう意味では簑浦くんは鬼ですね。

ただし、これは諸戸に感情移入しているからこその感想だと思います。簑浦くんの立場で考えるとまた違った感想になるのでしょうが、だとしても思わせぶりな態度はいかがなものかと思いますね。

 

ただ、あの手記は諸戸との関係については全てを書いていないような気がします。もしかしたら嘘をついているかもしれない。というのも、結論から先に言うと各方面に配慮したのと簑浦くん自身の保身が働いた結果だと思うのです。

事件が発生したのが大正14年。事件後に手記を書き上げたのはおそらく早くともその翌年でしょう。仮に二人が恋人関係だった、しかも体の関係まであったとしたら世間に向かって告白するにはかなりの勇気がいるはず。当時は変態的だの犯罪だのと言われていたらしく、だからこそ諸戸も悩み苦しんでいたのですから。

事件後、簑浦くんは秀ちゃんと結婚し、彼女の財産で諸戸屋敷の体の不自由な人たちを収容する施設や病院を建てます。つまり、まっとうに結婚して立派な事業を営み始めたわけです。となるとますます告白するわけにはいかないでしょう。自分だけならまだしも、妻や将来生まれるはずの子供に肩身の狭い思いをさせてしまうかもしれないのですから。そう考えると諸戸との関係は否定するしかないでしょう。しかし、既に知られている事実に関しては隠すわけにはいかないので、ああいうふうに書くしかなかったのかな。

 それに、諸戸の本当の家族(これについては後で説明します)に迷惑が及ぶかもしれない。大団円では登場人物たちのその後について語られていますが、諸戸の本当の名前を簑浦くんは知っていたはずなのに書かれていません。簑浦くんの一存なのか、本当の家族から頼まれたのか。どちらかはわかりませんが、なんらかの意図があって伏せたのだとしか思えません。

 恋人同士でなかったとしてもあの手記に書かれた以上の何かがあったのは確実でしょう。それが何かは推測するしかありませんが、個人的には諸戸の想いが多少なりとも報われるものであってほしいものです。

 

 さて、なんやかんやで岩屋島へ渡った二人。簑浦くんはそこで初めて秀ちゃんと(蔵の窓ごしですが)対面しますが、なんと互いに一目ぼれしてしまうのです!婚約者だった初代さんは亡くなったのだから誰と恋をしようが自由だけど、でもねえ…。葬式で灰を盗んで飲み込み、復讐を誓ったほどなのにもう他の女性と恋に落ちたの?初代さんが亡くなってから四十九日が過ぎたくらい?なのに…。それに、諸戸の気持ちは?そう考えるとすっきりしないんですよね。

 後に財宝を探しに地底へ潜り、迷路で迷った時のこと。諸戸が丈五郎との会話を打ち明けます。丈五郎は醜い上にせむしだからと幼い頃から虐げられてきました。その復讐として正常な人間も自分と同じような体に改造してやるという歪んだ野望をもっていました。諸戸に医学を勉強させたのはその手伝いをさせる為。

 屋敷にいる者の大半は丈五郎によって手術された者で、そうして人工的に作った者を見せ物小屋に売っていたというのですから狂っているとしか言いようがない。諸戸が絶望するのも納得な極悪非道ぶり。

あの双生児もそうでした。元々はごく普通の人間だったのを無理矢理にくっつけただけなので、切り離すのも簡単だと簑浦の問いに諸戸は答えます。そして彼女が元は普通の人間だったと知って嬉しいかい?と聞く。それに対し簑浦くんは「君は嫉妬しているの」と逆に質問する。

オイオイ、それをこの状況で言いますか。もう死ぬしかないと絶望し、自棄になった状態でそんなこと言ったらどうなるか。案の定、その一言でスイッチが入ってしまった諸戸は理性を失い、本気で簑浦くんに襲いかかってしまうのです。少し前まで怖い怖いと諸戸に縋りついていたくせに、こうなると断固拒否。生理的に無理なものを受け入れろとは言いません。でも、虫が良すぎやしないか?キスくらいは許してやれよ…と思ってしまうのは簑浦くんの無自覚な残酷さのせいか。ある意味鬼ですよ、鬼。

とにかく、簑浦くんは逃げ出し諸戸はそれを追いかけます。この状態の諸戸も簑浦くんからしたら鬼か悪魔に思えたでしょう。ちょっとだけ同情します。彼らだけではありません。タイトルの「孤島の鬼」とは素直に読めば丈五郎のことなのでしょうが、諸戸も簑浦も当てはまるかもしれません。いや、他の人もそうかも。誰の心の中にも鬼がすんでいるということなのでしょうね。

 その後、とうとう捕まって押し倒された簑浦くん。必死に抵抗し、揉みあっている間に登場したのがなんと漁師の徳さん。息子さんは残念ながら行方不明でしたが、おかげで助かったと簑浦くんはひと安心。諸戸としてはいいところで邪魔が入って悔しかったかもしれません。

 そこで徳さんの口から衝撃の事実が発覚します。なんと、諸戸は丈五郎の本当の子供ではなかったというのです。本土から誘拐されてきた子供なのだと。そして秀ちゃんは初代さんの妹で本当の名は緑。それまで絶望し、ここで死にたいと言っていた諸戸はその言葉で生きる気力を取り戻します。地上へ戻り、本当の親が誰かを白状させると。徳さんのおかげで食料も確保できたところで脱出を目指します。

 その後財宝の在り処を発見しましたが、その場に丈五郎の姿が。簑浦たちの縄を切ったのはどうやら彼で、自分は別の縄で先回りしていたらしい。お宝を前にすっかり正気を失っていました。後に警察に捕まり、おそらくは刑務所行きになったと思われます。しかし、あれだけの悪行三昧の末がこれですか。犯した罪の重さに比べて受けた罰があまりにも軽いような気がするのは私だけでしょうか。

 

 最終章のタイトルは「大団円」、つまり後日談ですが、登場人物たちのその後を簡単に説明している程度です。あまりに簡単すぎて拍子抜けです。

 ここで最大の衝撃が諸戸道雄の死でしょう。彼は丈五郎の妻の告白で実の親兄弟が判明します。30年ぶりの帰省を果たすのですが、それから一か月もたたないうちに死んでしまうのです。死因については触れられていません。

一か月で亡くなるって…死因はなんだったのだろう?病死とは考えにくいし、となると自殺…?と色々勘繰ってしまいます。いずれにせよ家族に看取られての最期だったようです。それは最後の一文を読めばわかります。

 最後の一文は道雄の父からの手紙を引用していますが、ここではご紹介しません。それは最初に読んでしまったのではたいした意味を持たないからです。私は長い物語の最後にこの言葉を目にした時、ものすごい衝撃を受けました。それから何度読み返しても、いや思い出すだけで涙してしまうほどです。簑浦くんの心情は書かれていませんが、おそらく衝撃を受けたでしょう。二人の関係性によっては道雄の死は簑浦くんの心に深く刺さり、一生消えない傷を負わせたのではないか。そんな気がしてなりません。

 

 繰り返しにはなりますが、道雄が本当に気の毒でなりません。簑浦くんは距離感がおかしくて勘違いさせまくりという意味で罪深い男ですが、生理的に同性を(恋愛的な意味では)受け入れられないことについては悪くもなんともない。道雄もそれをわかっているからこそ責めることは決してしません。自分の想いが報われることは決してないとわかっていながら8年間ずっと簑浦くんに尽くし、愛するのです。

 双生児を切り離す手術をしたのは道雄だったようです。その時、彼は一体どんな気持ちだったでしょうね。その後、簑浦くんは秀ちゃんこと緑と結婚します。そして異形の者たちの為の外科病院を建てるのですが、その院長として道雄を迎えたいと考えていたようです。

道雄がそれらを知っていたかどうかわかりません。もしも知っていたとしたらあまりにも残酷すぎる仕打ちだと思うのですが。想い人が幸せな家庭を営むのを傍で見せつけられるなんてまさに地獄ですよ、地獄。生きる希望を失ったとしてもおかしくないでしょう。もしかしたら死因はそれなのかも。

 

 

 コミックや舞台についても触れたかったのですが、原作についてだけでも長くなりすぎたのでまた別のところで。ここまで読んで頂きありがとうございました。